DVの被害と在留資格
在住外国人夫婦の子どもの国籍、在留資格
そこが聞きたい!Q&A
Q
フィリピン女性で、日本人の元夫との間の子どもは 13 歳。裁判を控えていて、 日本語を勉強している。子どもの親権については日本語能力も見られるというが、資 格があった方が良いのか、面接の練習をした方がいいのか?
A
通訳を入れてもよい。きちんと母語で話をして、こどもの養育ができているか、同居しているのか、子どもはどう考えているのかなど、調査官はその観点で見るとされる。
Q
離婚で、定住者に変更するには、婚姻期間が 3 年という要件がある。3 年以内 の場合はどうなのか、帰国せざるを得ないか?
A
基本的にはそうだが、就労関係の資格がとれるかどうか。それも難しいのであれば、帰国とならざるをえない。だめだと言われても、1 か月の出国準備期間があるので、その間に就労する。あとは、別の男性と婚姻の余地があれば、配偶者の妻としての資格も考えられる。待婚禁止期間を待って再婚するということもうまくいけば可能となる。 親権がなく面会交流だけだと入管は認めない。
Q
DVの被害者で住所地などを秘匿をしている。元夫側が入国管理局に執拗に問 い合わせをした場合、元妻の情報が漏らされることはないか?
A
その恐れのある夫の場合は、入管に、口頭だけではなく書面を出しておくとよい。
子どもの国籍と認知
父親が日本人で、結婚後に生まれていれば、出生によって日本国籍を取得している。 両親が結婚していない場合には、日本国籍取得に、認知が必要となる。
認知のみの場合:
法務局に届出して国籍を取得する(胎児認知)。最高裁判決平成 20年6月4日後の国籍法改正前は胎児認知が必要だったが、改正後は出生後認知でも届け出によって国籍取得ができるようになった。
出生後認知の場合:
認知届を出してから法務局に申請する(最高裁判決平成 20年 6月4日 後の国籍法改正による)。
認知がない場合:
子どもが裁判所に申し立て(実際には親権者の母親が行うことになることが多い)、裁判所に認知の判断を求めることができる (強制認知)。最終的な国籍取得の観点からは強制認知が望ましい。20 歳 までという年齢制限に注意が必要。※最近、JFC(日比ダブル児)の母子を狙った人身取引(が疑われる)案件が多数報告されている。2015 年 2 月には、60 人近くの JFC 親子らが被害者となった事件の摘発が行われた。
JFC はアイデンティティと経済的問題があり、日本に行きたいという気持ちを利用するブローカーが多い。
子どもの在留資格
子どもが日本国籍を持っている場合は問題にならない。在住外国人夫婦の子どもの場合は在留資格が問題になる。
在住外国人夫婦の子ども 在留資格で対応が異なる在留資格による適用制限あり
離婚後の生活の確保
日本は、離婚後に、夫が妻に対しての扶養をする義務はない。
離婚後も女性が在留資格を有していれば、生活保護の受給も可能。子どもがいる場合は、 養育費の請求もできる。
生活保護の申請
永住者、日本人の配偶者、定住者等の身分に基づく在留資格があれば生活保護を受けることができる。在留期限を経過して在留資格を失ったり、短期滞在や特定活動等の生活保護を受けることができない在留資格にならないように注意が必要。
※外国人の生活保護は法律上認められている訳ではなく、運用通達(昭和 29・5・ 社発 382 号)に基づいて認められている。
婚姻費用請求
婚姻中であれば、婚姻費用を夫に支払うよう請求することができる(民法 760 条)。 DVケースは、夫が任意に払うことは期待できないことが多いため、調停を申し立てることになる(夫が支払いに応じない場合でも、審判に移行となり、最終的に裁判官から支払い命令が出る)。申立ての月からの支払いとなるので、夫に支払い能力があるようであれば、できる限り早く申し立てる。
生活保護を受けている場合は、実際に婚姻費用分の支払いを受けると、生活保護費の返 還(一部の場合もあり)をしなければならないことがある。
弁護士費用について
在留資格の有無によって、利用できる法律扶助の制度が異なる。また在留資格に関する入管手続等行政手続きは在留資格の有無にかかわらず、日本弁護士会連合の援助制度を用いることになる。弁護士費用援助制度: 通常の弁護士費用(離婚調停で 150,000 円ほど)よりは廉価かつ分割払いが可能。生活保護受給者は、法テラスの弁護士費用(通訳費用を含む)が猶予・免除される。
手続き:
相談担当の弁護士に法テラスを利用したい旨を伝える。在留資格・国籍等についての行政手続きは利用できない。
通訳費用:
100,000 円まで立替可能(かかった合計額を分割返済していくことになる)。
行政手続きの依頼または、在留資格がない場合は日本弁護士連合(日弁連)の援助(在留資格、国籍等)を利用できる。弁護士費用の償還の必要はない。
法テラスサポートダイヤル
法テラス多言語情報提供サービス 0570−0783770570−078374
平日 9:00〜21:00 / 土曜日 9:00〜1 7:00
http://www.houterasu.or.jp/multilingual/index.html
ハーグ条約について
ハーグ条約とは
国家間の不法な児童連れ去りを防止することを目的として、1983 年 12 月 1 日に発効した多国間条約。オランダ・ハーグで締結されたために「ハーグ条約」と呼ばれる。日本は、 2014 年 1 月に締結、4 月から施行されている。
注意 : ハーグ条約との締約国間でのみ問題となる。日本でDVを受けたため、子どもを連れて戻った国がハーグ条約の締約国でなければ、手続きは行われない。
子どもを連れ戻すと誘拐罪になるのか
日本:「未成年者略取誘拐罪」 2005 年 12 月 6 日の最高裁判決。平穏に生活していた事実上の監護者から、非監護者が有形力を行使して子どもを連れ去った場合に、未成年者略取誘拐罪が成立する(共同親権者であっても違法性は阻却されない)。子を連れて戻ったときにどうなるかは当該各国での判断となる。
最高裁判例にみる誘拐罪成立の考慮要素
ワンポイント
ハーグ条約施行後は、相手国に子どもを連れ去られてしまう恐れがある。しかし、入国管 理局は出国を止めることはほぼないと考えられる。
ハーグ条約施行後、従前より警察も連れ去りに敏感になっており、警察に相談することは、連れ去られ防止の有効な手段でもある。相手が誘拐容疑者の対象になっていれば、警察が動く可能性もある。
また、子どものパスポートは相手に渡さないこと。二重国籍の場合は可能。共同親権者の場合は、一方の同意がないとパスポートの発行を認めない(米国、オーストラリア他)。日本は、以前は一方の親だけでパスポートの発行ができたが、現在は一方が発行しないようにという書面を提出していると、一方だけでは発行できない。
※子どもを連れて帰国する場合は、警察が動くようになったので注意が必要。
本稿監修者 皆川涼子弁護士連絡先: マイルストーン総合法律事務所 Milestone Law Office
TEL 03-5790-9886 FAX 03-3467-5585