本ガイドの使い方
本ガイドはどこから目を通していただいても、外国籍女性の支援は、日本人女性への支援と何ら変わるところがないことに気付かれると思います。法や制度に沿っていても、支援の中身やマインドは変わらない。そこを基本としています。そのうえで、各出身国のバックボーンである文化や慣習を理解することが大切であることを、お伝えしたいと思います。
日本に住むのだから日本のやり方に従え、という考え方もありますが、本ガイドでは、
――被害にあった女性が、何を求めて、何をしてほしいか耳を傾ける――
が支援の基本であると考えます。
そのためにまずは、日本でのDV被害者支援に携わっているお二人に、被害者支援に取り組まれてきた思いを存分に語っていただきました。支援の基本を確認するため、あるいは外国籍女性支援に行き詰まってしまったとき、1章に目を通していただけたらと思います。
また、外国籍女性の支援に直面している、在留資格はどうなっているのかなど急を要する場合は、「在住外国人支援について」、「DVの被害と在留資格」から読んでいただいてもよいと思います。
本ガイドは、外国籍女性がDVの被害にあった場合やその支援に活用していただきたい基本を記したものです。教育など子どもの支援については、私たちの今後の課題としています。
本ガイドは、一般社団法人ウェルクが 2015 年 8 月 23 日から 10 月 25 日まで開催した『在住外国人DV被害者支援のエキスパート養成講座』を基に、各監修者に加筆していただいたものです。
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私たちは日々出会う外国籍の被害にあった女性たちへの支援の困難さを感じていました。けれど、国籍別の女性たちへの支援を学び、支援を考え直そうと思ったきっかけがありました。相談室で無力感に打ちひしがれ、しょんぼりとして話そうとしなかった人が、その国のことをよく理解する支援者、多文化共生相談員に出会ったとたん、別人のように生き生きとして能動的に活動し、判断し出したことに驚いた体験があったからです。
彼女たちは、DVによる支配と暴力の壁をはじめ、数々の見えない壁に阻まれています。一番は、夫や家族の協力を得られないと在留資格をはく奪されるという間違った情報で脅されていたり、言語の問題、特に支援に関わる制度や行政用語が分からないということがあります。さらにはゴミの分別に象徴される生活慣習や求められる子育てや妻役割などの日本の社会常識の違い、母親の母語を理解できないで育った思春期の子どもとコミュニケ ーションがとれず養育困難となり、子どもと離れざるを得なくなるなどがあります。
また、婚姻中にも関わらず夫から生活費を1円ももらえないなどの経済的困難や本国にいる子どもたちや両親への仕送りのため、2、3 の仕事をかけもちして働いて、健康を害しています。本国では知的職業についていたのに日本では仕事がなく、幼児がいても夜の仕事をせざるを得ず、その結果施設への入所が不可となってしまいます。
政治的迫害を受けたため同国人コミュニティや大使館、通訳さえ信頼できず公的な支援が受けられない、さらには、金銭を媒介した結婚斡旋業者をへた結婚からの脱出など、これらが複合的に絡み合って、基本的人権を脅かされていても危険な支配や暴力に甘んじつつ、不安に生きるしかない、そういう世界が日本にあります。
だからこそ、私たち支援者は、海を越えてやってきた動機、本国での生活の様子、受けてきた教育訓練、夫と知り合うきっかけや日本での生活状況、支えてくれる友人の有無などの背景を正確に知ること、そしてその国に関わる文化的特徴や大切にしている価値観、最低限配慮すべきことを理解し尊重することが重要な支援の柱だと考えました。
このガイドでは、国籍ごとに特徴のある厚い壁に阻まれた、もっとも支援が必要な女性たちに丁寧に寄り添い支援している民間の支援団体や法律家が、同国人コミュニティや行政システムからもはじかれ被害にあった女性のケースを語ってくれています(特定できないように内容は改変済み)。また、行政の多文化共生相談員の方にも国別の支援のケースを語 っていただきました。
本ガイドから浮かび上がる忍耐強く寄り添う支援が、現場で日々、悩み、課題に直面している多くの支援者の方々の一助となれば幸いです。