国・地域別在住外国人女性

バングラデシュの女性

女性をめぐる状況

結婚・離婚・登録・相続・財産権 

<結婚> 
継続して結婚していることが義務。女性が独身でいることは許容されない。 
女性は、初潮とともに性欲がある存在(=社会的危険物)とみなされる。 ⇒結婚してもよいとみなされる(近年の教育の普及により変化している。男性は経済力がないと結婚できない)。結婚年齢は男女共 18 歳(実際はさまざま)。夫と妻の年齢差が大きい。大半が保護者が決めた相手と結婚(恋愛結婚、ケータイ婚)し、婚姻外の性的な関係は許容されない。持参金の習慣(本来ムスリムは婚資:夫側→妻側)  重婚は少ない(出稼ぎ先での重婚、出奔、遺棄)

※ケータイ婚:海外に出稼ぎに出た男性とバングラデシュにいる女性が、携帯電話で結婚の誓約を交わす結婚式のこと、結婚相手は保護者が決める。 

<離婚> 
通常は、妻側からの離婚の申し立ては難しい。夫が妻を離婚するのは容易。 離婚は、女性たちから非常に恐れられている。
<登録> 

婚姻(出生も)の登録をしていないことが、女性の権利が守られない一因となっている。

女性をめぐる状況―相続・財産権・性別役割分担 

<相続・財産権> 
貧困層では、女性は財産を相続しない。兄弟に財産を譲る。一方で、女性名義で銀行口座を開ける。土地の所有者にもなれる。   
<性別役割分担> 
パルダー(=カーテン): 成人女性は、家族・親族以外の成人男性に姿を見られてはいけない。性欲は肯定的に捉えられている。 
女性は、家屋敷の敷地内とその周辺でできることをする ⇒ 家事育児、家畜飼育、野菜栽培、農業・加工業のプロセスの一部分など。 
男性は、外での一切のことを行う ⇒ 買い物や女性が生産した物を売るのは男性。 
女性だけで、生計を立てていくことは困難 ⇒ 近年大きな変化が起きている。 

女性をめぐる状況―近年の変化 

教育、就労、開発 1980 年代以降の新自由主義的傾向 ⇒ 女性に求められる役割が急激に変化してきた。 
<雇用> 
縫製工場が女性の雇用先を拡大することに大きく貢献: 女性の労働力率は 2000 年で25.3%、⇒ 2010 年で 34.8%。 
すべての所得分位階級で上昇(特に低所得層)(5) 
<貧困対策> 
小規模金融: 運用者は男性だが、借り手の大半が女性。  
<教育> 
女子中等教育奨学金: 初等・中等教育の就学率は女児のほうが高くなった。
 <地方分権化・民主化の傾向>  
行政の委員会他は女性が3割ほど。 国会、地方議会の女性留保枠。 

女性への暴力に対する社会の対応

​女性への暴力に対する社会の対応――近年の変化 ①(6)(7) 

① ADR(裁判外紛争解決手法 村裁判、裁判所外の調停、裁判所内の調停他)による調停。
 背景:ADR(Alternative Dispute Resolution)→ Legal Aid NGO による ADR の実施
(Madaripur Legal Aid Association:1978-、Bangladesh Legal Aid Service)
② 刑事訴訟法 1908 年、2003 年修正(Criminal Procedure Code)345 条に記載された軽犯罪。
③ 家庭 裁判所令 1985 年(Family Court Ordinance)10 条に記載された項目
(婚資と持参金、扶養、離婚、結婚生活の再開、親権)について扱える。

女性組織 4 団体が合同で仲裁 : 事例 

DV夫 24 歳、妻 19 歳(結婚年齢を満たさずに結婚)。3 年前に結婚し、1 歳半の子どもあり。妻が家事をこなせないことなどに腹を立てた夫と家族が、身体的暴力をふるったため、妻が子どもを連れて実家に帰った。 
妻側が申し立て、夫側が呼ばれて謝罪。夫は「もう妻を殴りません」、妻は「義父母を敬います」旨の証文を作り、双方がサイン。妻は婚家に戻ることに。4 団体は証人となる。

プロセス : 
①    申し立て
②    調査→調停実施の決定
③    関係者へ調停実施の告知(訴えた方、訴えられた方、 ユニオン・ポリショッド〈役場〉)
④    調停(言い分の聴取、解決策の協議、解決に関する証文作成)
⑤    終了

女性への暴力に対する社会の対応―近年の変化 ② 

村裁判への介入   
背景 : 地域社会のリーダーによる伝統的な村裁判が減り、行政村議会議員などが担うようになった → 中立性の問題。男性だけが担い手で男性の視点で裁かれがち。 
女性が村裁判に参加するようになったのは、2006、7 年以降。現在でも全体の 2 割程度。 

※「チェンジ・メーカー」「ソーシャル・エージェント」は、性暴力や DV を社会からなくすために活動する個人。「スフィア・カマル・フェロー」は、議員になって政治参加しようとする女性を支援するために作られた制度。選挙に立候補しようとする、もしくは立候補して落選した女性たちをメンバーに認定し、様々な研修や社会活動の機会を与える制度。バングラデシュの女性運動のパイオニアであるスフィア・カマル(故人)にちなんで名づけられた。 

公式の裁判の増加 

時間と費用の負担、アクセスの問題、知識の欠如

プロセス:

①    訴状の提出先(行政村議会 または個人へ)
②    事案の確認、村裁判が可能か判断
③    実施の告知
④    実施(言い分の聴取、解決策の協議、解決に関する証文作成)
裁定者は、議員、地域の有力者、イマム(礼拝の指導者)、ソーシャル・エージェント、教師など 10〜20 人) 

事例 
①夫の言うことをきかなかった妻 :小規模金融関係の暴力で、夫が NGO は悪いものだから参加するなと言ったにもかかわらず参加した妻に腹を立て、サリーに火をつけた。幸い、妻に怪我はなかった。妻は、ソーシャル・エージェントの家に 22 日間避難。その後シャリシュ(村の有力者によるインフォーマルな裁判)が開かれた。
②女児を強姦 :イマムがハイスクールに通う女児を強姦。その日の夜にシャリシュが開かれ、20 万タカの罰金を払う裁定がなされるも、加害者は 5 万タカを払って逃亡。ソーシャル・エージェントである女性が被害者に聴取し、女児が自殺を企てないように保護した。

※写真、図表はすべて静岡大学教員・池田恵子さん提供によるものです。
 


引用文献 

(1)Bangladesh Bureau of Statistics, 2013, Report on Violence against Women Survey 2011. BBS, UNFPA.
(2)Bangladesh Bureau of Statistics, 2009, Gender Statistics of Bangladesh 2008, BBS.
(3)Naved, Ruchira Tabassum et al, 2006, Physical violence by husbands: Magnitude, disclosure and help-seeking behavior of women in Bangladesh, Social Science & Medicine 62:2917-2929. 
(4)Ahmed, M. Kapil, 2004, Violent deaths among women of reproductive age in rural Bangladesh, Social Science & Medicine 59: 311–319.
(5)World Bank, 2013, Bangladesh - Poverty Assessment : Assessing a Decade of Progress in Reducing Poverty, 2000-2010, World Bank.
(6)池田恵子、2011、「バングラデシュにおける女性に対する暴力と『ジェンダーと開発』の展開:ある『草の根』女性運動家の語りから」、『静岡大学教育学部研究報告−人文・社会科学篇』61 号、1-16 ページ。 
(7)池田恵子、2017(発行予定)、「バングラデシュにおける「調停」を用いたジェンダーに基づく暴力(GBV)への介入」、『静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会・自然科学篇』67 号、(ページ未定)。

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