メディアがやるべきこと 皆さんは、どうしたら暴力防止のために被害者救済の話が伝わるか、メディアで現場感がきちんと伝わっていないが故に、適切な報道がなされていないというフラストレーションをおもちだと思います。私は主にインターネットのメディア4つほどで書いていて伝える側なので、どういう情報だったら伝わるかを中心にお話しします。 私は大学を卒業してすぐに日経新聞の子会社の出版社に入り、経済雑誌の記者を16年やっていました。経済雑誌なので、いわゆる活躍する女性といったテーマの取材が多く、都心部で恵まれた仕事についている方々の取材をしていました。 大学は法学部で、人権の概念をたたき込まれました。私にとって人権とは「こんなこと、される筋合いはない」というコンセプトです。脅迫されるのもたたかれるのも、おかしいことです。 DV被害者は、経済力がなく夫と別れられない、外国人で言葉がわからないという属性状のディスアドバンテージ(不利)があると思われがちですが、そうではありません。対等の経済力があって加害者も特定できていても、離れられないのがDVなのです。被害者にとって「逃げればいい」という言葉は意味がありません。どうしたら一歩踏み出せるかを考える記事を書いていきたいと思っています。
子どもの時に叔父から受けた性虐待への札幌高裁の判決 メディアが扱う暴力には、配偶者によるDV、性暴力、子どもへの虐待、性虐待があります。一般人が最も共感し同情し、反対意見が出てこないのは子どもへの虐待です。この問題に関する私の記事に対して、被害者を責める言説が出てきたことはありません。 釧路で、子どもの頃から叔父に性的虐待を受けていたという事件がありました。この事例では、初めて除斥期間、刑法で言う時効を否定し、被害が認められました。Yahoo!ニュース個人に私が書いた記事がかなり読まれ、記事をきっかけにラジオの取材も入って、その後展開が良くなりました。 ニュースが最も価値をもつのはタイミングです。大きな事件が報道されるより少し早いタイミングで出すことに意味があります。個人情報を黒塗りした訴訟準備書類を見た時には、怒りで手がふるえましたが、なるべく冷静に書きまし。私が書くときのモチベーションは「ふざけるな」ですが、なるべく多くの読者に「ふざけるな」と思ってもらうため、私自身の怒りを7割減にして書きました。この記事はきちんと読まれて、良い影響がありました。
母親に指示され祖父母刺殺、17歳少年の過酷な生活 川口で母親に指示されて殺人をさせられてしまった少年の事件がありました。事件を取材していた毎日新聞の記者の山寺香さんは『誰もボクを見ていない』(ポプラ社)という本を出版し、私が「Yahoo!ニュース個人」に書評を書きました。少年自身が保護されるべき状況だったのを社会が見過ごした悲惨な殺人事件です。 少年の妹は児童養護施設にいるのですが、施設を出た後に母親と暮らし始めたら母親が妹に何をさせるかと、少年は心配しています。母親を上手に排除し、いかに妹を支援するか。少年は非常に向学心があり、通信教育で勉強できるよう支援の輪が動き出しています。インターネットの良いところは、記事を読んで行動しようと思った方がすぐにアクションに結びつくところだと思います。
シェルターの厳しい実情 全国女性シェルターネットの近藤恵子さんにインタビューし、民間シェルターの厳しい実情を『東洋経済オンライン』に記事を書きました。DV被害者を保護する施設が足りず、民間のシェルターは財政難です。 『東洋経済オンライン』は日本の経済メディアで最もよく読まれていて、月間2億ページビューくらいあります。経済メディアですが、女性読者が3割から4割います。そういうメディアを見る一般の方にとっては、皆さんには当たり前の事実がニュースバリューをもつのです。そうした知らない人たちに、その問題がいかに深刻であるかを上手に伝えることが大事ではないかと思います。
父親から性虐待を受けていた女性へのインタビュー 私がYahoo!ニュース個人で書いた記事のなかで最も読まれたのは、父親から性虐待を受けていた女性へのインタビューです。顔と名前は出さずに事実を淡々と話してくれました。2015年に書いた記事ですが、現在までに3年間で220万ページビュー、初年度だけで168万ページビューでした。 インターネットの記事は、結構読まれて10万ページビューくらいです。100万を超えると、近所のカフェなどで「○○さん、出てましたね」と言われるほど、テレビに近い拡散力があります。 Yahoo!ニュースは大衆的なメディアですが、子どもの性虐待には「おかしい」「何とかするべきだ」「なぜ放置しているんだ」というまともな反応が返ってきます。データや事例、「どうするべきか」と正面からボールを投げて、まだまだ世の中の人に届くのです。皆、知らないことがたくさんあると思います。 工夫が必要なのはDVです。ツイッターの反応を見ていると、必ず「DVはねつ造である」と言って来る人がいます。これにどう対処するか。基本は無視です。無視しないと聞かなくていいことを聞いてしまい、本来発信すべきことを発信できなくなってしまうからです。私はあらかじめ編集者と「無視する」と決めて、発信しています。
活躍している女性でも、被害者になるとなかなか抜け出せない 今日出た記事ですが、東京都の男女平等参画計画は2本柱でできていて、女性活躍推進計画と配偶者暴力対策基本計画です。やはり活躍と暴力撲滅は同時に進めるべきだと思います。武石先生のお話にもありましたが、暴力を受けるかもしれないとおびえる状況では活躍できない。 活躍業界の人は暗い話は見たくない、私たちは被害者ではないと言いますが、いつ何があるかわからない。経済的に自立して活躍している女性でも、いざ被害者になるとなかなか抜け出せないという現状があるのです。
「暴力をふるう男性にはビールを売らない」というメキシコのCM 最後に、メキシコのビールメーカーがつくったDV防止のCMを紹介します。昨年、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで、ジェンダーの観点からの優れたCMを表彰する「グラスライオン」賞を受賞しました。 マッチョな男性が出てきて、「男らしさは強さや怒りを見せることで定義されるのではなく、女性をどう扱うかで男らしさは定義されるべきだ」というナレーションが流れ、DVを受けたとおぼしき女性の画像が出て、「そういうやつらにはうちのビールは売らないよ」と続きます。最後に「メキシコでは3人に2人がDVの被害者」という字幕が流れます。 ビールは多くの男性が飲む大衆的なものですから、非常にチャレンジングな作品だと思います。消費者の一部を失うかもしれないリスクがあってもこうした啓蒙をすべきだと、この会社は選択したのです。日本の会社も、社会的責任としてこうしたことに関心を持って欲しいと思います。ありがとうございました。
西田 ありがとうございました。では、山田不二子先生、お願いします。
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DV防止&被害者救済の提案・メディアの果たす役割
フリージャーナリスト
治部れんげさん
メディアがやるべきこと
皆さんは、どうしたら暴力防止のために被害者救済の話が伝わるか、メディアで現場感がきちんと伝わっていないが故に、適切な報道がなされていないというフラストレーションをおもちだと思います。私は主にインターネットのメディア4つほどで書いていて伝える側なので、どういう情報だったら伝わるかを中心にお話しします。
私は大学を卒業してすぐに日経新聞の子会社の出版社に入り、経済雑誌の記者を16年やっていました。経済雑誌なので、いわゆる活躍する女性といったテーマの取材が多く、都心部で恵まれた仕事についている方々の取材をしていました。
大学は法学部で、人権の概念をたたき込まれました。私にとって人権とは「こんなこと、される筋合いはない」というコンセプトです。脅迫されるのもたたかれるのも、おかしいことです。
DV被害者は、経済力がなく夫と別れられない、外国人で言葉がわからないという属性状のディスアドバンテージ(不利)があると思われがちですが、そうではありません。対等の経済力があって加害者も特定できていても、離れられないのがDVなのです。被害者にとって「逃げればいい」という言葉は意味がありません。どうしたら一歩踏み出せるかを考える記事を書いていきたいと思っています。
子どもの時に叔父から受けた性虐待への札幌高裁の判決
メディアが扱う暴力には、配偶者によるDV、性暴力、子どもへの虐待、性虐待があります。一般人が最も共感し同情し、反対意見が出てこないのは子どもへの虐待です。この問題に関する私の記事に対して、被害者を責める言説が出てきたことはありません。
釧路で、子どもの頃から叔父に性的虐待を受けていたという事件がありました。この事例では、初めて除斥期間、刑法で言う時効を否定し、被害が認められました。Yahoo!ニュース個人に私が書いた記事がかなり読まれ、記事をきっかけにラジオの取材も入って、その後展開が良くなりました。
ニュースが最も価値をもつのはタイミングです。大きな事件が報道されるより少し早いタイミングで出すことに意味があります。個人情報を黒塗りした訴訟準備書類を見た時には、怒りで手がふるえましたが、なるべく冷静に書きまし。私が書くときのモチベーションは「ふざけるな」ですが、なるべく多くの読者に「ふざけるな」と思ってもらうため、私自身の怒りを7割減にして書きました。この記事はきちんと読まれて、良い影響がありました。
母親に指示され祖父母刺殺、17歳少年の過酷な生活
川口で母親に指示されて殺人をさせられてしまった少年の事件がありました。事件を取材していた毎日新聞の記者の山寺香さんは『誰もボクを見ていない』(ポプラ社)という本を出版し、私が「Yahoo!ニュース個人」に書評を書きました。少年自身が保護されるべき状況だったのを社会が見過ごした悲惨な殺人事件です。
少年の妹は児童養護施設にいるのですが、施設を出た後に母親と暮らし始めたら母親が妹に何をさせるかと、少年は心配しています。母親を上手に排除し、いかに妹を支援するか。少年は非常に向学心があり、通信教育で勉強できるよう支援の輪が動き出しています。インターネットの良いところは、記事を読んで行動しようと思った方がすぐにアクションに結びつくところだと思います。
シェルターの厳しい実情
全国女性シェルターネットの近藤恵子さんにインタビューし、民間シェルターの厳しい実情を『東洋経済オンライン』に記事を書きました。DV被害者を保護する施設が足りず、民間のシェルターは財政難です。
『東洋経済オンライン』は日本の経済メディアで最もよく読まれていて、月間2億ページビューくらいあります。経済メディアですが、女性読者が3割から4割います。そういうメディアを見る一般の方にとっては、皆さんには当たり前の事実がニュースバリューをもつのです。そうした知らない人たちに、その問題がいかに深刻であるかを上手に伝えることが大事ではないかと思います。
父親から性虐待を受けていた女性へのインタビュー
私がYahoo!ニュース個人で書いた記事のなかで最も読まれたのは、父親から性虐待を受けていた女性へのインタビューです。顔と名前は出さずに事実を淡々と話してくれました。2015年に書いた記事ですが、現在までに3年間で220万ページビュー、初年度だけで168万ページビューでした。
インターネットの記事は、結構読まれて10万ページビューくらいです。100万を超えると、近所のカフェなどで「○○さん、出てましたね」と言われるほど、テレビに近い拡散力があります。
Yahoo!ニュースは大衆的なメディアですが、子どもの性虐待には「おかしい」「何とかするべきだ」「なぜ放置しているんだ」というまともな反応が返ってきます。データや事例、「どうするべきか」と正面からボールを投げて、まだまだ世の中の人に届くのです。皆、知らないことがたくさんあると思います。
工夫が必要なのはDVです。ツイッターの反応を見ていると、必ず「DVはねつ造である」と言って来る人がいます。これにどう対処するか。基本は無視です。無視しないと聞かなくていいことを聞いてしまい、本来発信すべきことを発信できなくなってしまうからです。私はあらかじめ編集者と「無視する」と決めて、発信しています。
活躍している女性でも、被害者になるとなかなか抜け出せない
今日出た記事ですが、東京都の男女平等参画計画は2本柱でできていて、女性活躍推進計画と配偶者暴力対策基本計画です。やはり活躍と暴力撲滅は同時に進めるべきだと思います。武石先生のお話にもありましたが、暴力を受けるかもしれないとおびえる状況では活躍できない。
活躍業界の人は暗い話は見たくない、私たちは被害者ではないと言いますが、いつ何があるかわからない。経済的に自立して活躍している女性でも、いざ被害者になるとなかなか抜け出せないという現状があるのです。
「暴力をふるう男性にはビールを売らない」というメキシコのCM
最後に、メキシコのビールメーカーがつくったDV防止のCMを紹介します。昨年、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで、ジェンダーの観点からの優れたCMを表彰する「グラスライオン」賞を受賞しました。
マッチョな男性が出てきて、「男らしさは強さや怒りを見せることで定義されるのではなく、女性をどう扱うかで男らしさは定義されるべきだ」というナレーションが流れ、DVを受けたとおぼしき女性の画像が出て、「そういうやつらにはうちのビールは売らないよ」と続きます。最後に「メキシコでは3人に2人がDVの被害者」という字幕が流れます。
ビールは多くの男性が飲む大衆的なものですから、非常にチャレンジングな作品だと思います。消費者の一部を失うかもしれないリスクがあってもこうした啓蒙をすべきだと、この会社は選択したのです。日本の会社も、社会的責任としてこうしたことに関心を持って欲しいと思います。ありがとうございました。
西田
ありがとうございました。では、山田不二子先生、お願いします。