いかにバイスタンダー(傍観者)にしないか 千田 さきほど西田さんのお話で、スウェーデンの若者が「暴力はださい」と言った。その感覚は大事だと思うのです。正しい、正しくないでは息が詰まってしまうので、「暴力はださいんだ」という感覚を若い人に持ってもらうのは重要だと思います。 私は6年くらいアメリカの暴力加害者、若い人たちをどうやって加害者にしないかという暴力のプリベンションプログラムの調査をしています。NPOに行き、大学の中でデートレイプをどう防ぐかというプログラムを見ていると、アメリカはすごくプラクティカルで、わかりやすいプログラムがたくさんあるのです。加害者でも被害者でも支援者でもない人が大部分で、そういう大部分の人をいかにバイスタンダー(傍観者)にしないか。ただ見て放っておくこと自体が暴力を支えてしまうと周知されていることに感動しました。 しかも介入すると言っても、わりとできるようなことをするのです。例えばここで性暴力が起こるかもしれないという時、介入するときに電話をかけてみる、バーテンダーに「助けて欲しい」と頼んでみるといった些細な介入によってその場の暴力の可能性に亀裂を入れることができる、そういうプログラム。 もう一つ感心したのは、プログラムが貧困の場で大きく結びついていることです。貧しいエスニックマイノリティの子たちが、自分たちの問題として考え、自分たちの暴力的な文化を変えていかなければいけないと考えることによってアイデンティティを考え直す。自分たちが加害者にならないことを考えることによってエンパワメントされていく。そういうことも、日本において重要なのではないかと思っています。
西田 正しいか正しくないか、判定を下す以前にどんな実態があって、どういうふうに聞くと参加できるか。もう少しハードルを落とした、「暴力っていやだよね」と。学校のいじめの問題も、目を背けるのではなく、「おかしいと思う、皆で話し合おうよ」と一言挙げる。そういう気風をおこすことが学校のクラスの場を変えていくわけです。駄目だ駄目だというと、隠れた、ネットのいじめが起きていますが、陰湿な問題こそ、いろんな人が少しだけ声を上げることで、「そんなださいこと嫌だよね」「かっこう悪いよね」「僕はもっとさらさらと生きたいからこうしたいね」という前向きな意見を引き出す。 一生懸命勉強されてきた皆さんから見ると、はがゆいかもしれないですが、少しずつ育てていくという気風が、これから外に向かってできるといいと思います。そういうささやかな非暴力の勉強会や若い人たちから聞く場をつくって専門の方を交えて議論していく。 今日は第一弾、キックオフです。後3回ほど続けながら広げるためのアイデア出しをしていきたいと思っているのです。山岸さんのところではどんなアイデアだったら一緒にやっていけるでしょうか。
世論形成が必要 山岸 いくつかのレベルでお話します。さきほど少し紹介した「ここにいるキャンペーン」は、外国人支援団体に広めて行こうと思っています。今日は外国人女性と子どもへのDVというお話をしましたが、日本においてマイノリティである外国籍者があまりにも日本人と対等な権利を保証されていないのです。韓国は多文化家族支援法の前に外国人権法がつくられているのです。日本は人権基本法もないし、ひどいヘイトスピーチに対して、ようやくヘイトスピーチ解消法ができましたが、人種差別撤廃法もないのです。そうした基本政策がなく、外国人の管理の政策だけはあるのです。こういう中で移住者の支援団体をずっといろいろなロビー活動、提言活動をしているのですが、本当に困難を感じています。 やはり世論形成が必要です。230万人の外国籍者が暮らしていて、皆日常生活をし、働き、国際結婚などいろいろな生活があって、ボイスアウトすることがすごく必要だということで、「ここにいるキャンペーン」があります。各地でタウンミーティングや集会を開き、そのなかで移住者外国人の当事者が発言するようなものをつくっていくのです。今も1ヶ月に1回くらい、いろんなスケジュールが入っています。こうしたものはいろんな人に参加してもらえます。カラカサンもシェルターネットの一つとして協賛企画をしますが、外の企画もキャンペーンの協賛企画、賛同企画としてやってもらうことができます。これは民間レベルでやっていくアクションの呼びかけです。
外国人女性が育てている子どもたちは日本の将来を担う人材 アドボカシーは国レベルと自治体レベルの提言がありますが、移住連やシェルターネットと一緒に外国人のDVに対する施策では、ある程度の成果を生み出しました。外国人女性が育てている子どもたちは日本国籍者であり、外国ルーツの子どもたちは日本の将来を担う人材です。その人たちが暴力の被害によって圧倒的に大変な状況になって、社会から阻害されてドロップアウトしていくという危機感に対して、国として絶対取り組むべきだというアピールをしていく戦略をとりました。 そして法律で外国籍者も明記された後、地方自治体に関しては民間で調査すると、神奈川県は先駆的に民間に委託して共同事業で7カ国語、はじめの頃からコールラインを始め、多言語支援、多文化支援をやっているのです。ところが全く何もやっていないところもある。この格差を縮めるために私もいろいろな地方に呼ばれ、被害者支援をする時に行政が受け入れてくれないから駄目だとあきらめるのでなく、法律もあるし自治体によってはこれだけのことをやっていることを知って、行政との連携を強く求めることをやっていくと、行政は考えるのです。通訳者との連携が必要、予算措置が必要だと考えていって、関わったことから施策が変わっていきます。各地で支援に携わる方は、外国籍の方が面会に来た時にも必ず公的支援に一緒にやって、そこから広がっていくと思っています。
暴力被害の支援に不可欠な専門の機関 方 今年のゴールデンウィークに実際にあったことですが、ある方から韓国人のDV被害者をかくまっているけれどもどうしたらよいかとの相談がありました。その方にいくつかの相談機関を教えて差し上げたのですが、どこも祝日でお休みだったのです。ゴールデンウィークの頭なので、3日、4日待たなければいけないと。彼女は経済的余裕があったので、危険をおかして自宅に戻って、パスポートとお金を持って急遽帰国し韓国の相談機関に行きました。帰国されて韓国から日本の弁護士とやりとりをしながら、離婚手続きを進めています。かくまった方は東京の警察に報告したのですが、警察から「自分たちの身も危険にさらすわけだから気をつけなさい」という警告があったそうです。 暴力被害の支援、特に外国人となると専門的な知識やスキル、言語的なスキルが必要です。日本では一般の方がもう一歩踏み込んでエンパワメントに携わり、支援することが必要だと思うのですが、この一件から安易な外国人暴力支援は一般市民を危険にさらすこともあると実感しました。韓国のように専門の機関が不可欠ではないかとしみじみ思った事例です。 韓国では1980年代から女性のホットラインや女性団体が一致団結して、まずは政府から助成金を受け取ってそこから大綱整備、システムの体系化へという流れがありました。日本の現実のなかでどのような支援が必要なのか情報共有し、アピールしていく必要があると思います。
一般の人にどうアピールするか 西田 エティックの方々は、NPOや社会起業家として地域のために貢献したい、ビジネスマンとして成長したいという若者たちの人材育成をパワフルに20年間頑張ってこられました。私も彼らの学生時代から存じ上げていて、特別養子縁組の支援活動に協力いただき、一緒に勉強会や意見交換をしました。 若い方や不妊治療しているママさんたちは、そういう状況を知ることによって少しずつ動き出すのです。産婦人科に特別養子縁組みの資料がまったく無かったけれど、不妊団体も取り入れるようになっていきました。全く異なるところでこういう問題がどう関連していくか、知っていただくことが大事だと思います。 エテックの佐々木さんは今、子育てパパでとして頑張っていらして、40歳を過ぎて社会全体の中核を担う、次の時代を動かしていく年頃です。次世代に、社会につないでいく若者たちにもこういう問題を一緒に考える仲間になっていただきたいと思い、今日は佐々木さんに来ていただきました。DVの分野ではないですが、児童福祉法を含めた形で、こういう課題をどのように広げていったらいいか、どういうことなら若い人たちと一緒にできるかということをお話しくださいますか。一般の人が重いテーマでよくわからないと思っている時に、どういうアプローチでアピールしていくと、受け止めやすくなるでしょうか。
周りによくあること、深刻にならずに伝えていく 佐々木 社会的な認知を広げていく、ポジティブに広げていく時に参考になる話があったらと思いました。性的少数者、LGBTの支援をしている人たちが周りにいて、子どもたちの現場ではいじめられ、自殺率が相当高い現状があるそうです。そういう人たちの支援をしているところを後ろから支援することを我々はやっています。 現場で起きていることは非常に深刻で、重いテーマです。社会的には、その重い事柄をそのまま言っても、わかるけれど重すぎてどう受け止めればいいのだろうということになりがちです。そういう時にLGBTの領域では比較的ポジティブに、「周りにそういう人がいっぱいいるから、そういう人たちと仲良くなっていこうよ」とやっている人たちもいます。そういう人たちと連携していくと、一般の人たちにとって特別なことというよりは、「周りによくあることだし、自分の友達にも性的少数者の人がいるのではないか」という感覚になるという動きが、ここ3、4年くらい一気に起きています。 先ほどアメリカの予防的プログラムのお話を聞かせていただいて、「こういうことってあるよね」と、深刻にならずに伝えることと、もっと手前の段階で、「こういうふうにあれたら皆ハッピーだよね」ということを同時に伝えていくことができると、全体として変わっていくのかなと思いました。
西田 当事者が強い衝撃を受けている時、ぼおっとしていて自覚していない時、周りの人がいくつかのチェックを覚えていて、「大丈夫かな」と思ってあげる、様子が変だと気づくだけでも大きな支えになると思います。DV加害者は外にわからないような、なかなかの知恵者が多いから、社会全体としてチェック要項を共有するだけでもだいぶ違うような気がします。 一人一人の人権を尊重する社会にするためにも、チェックができる社会でありたいし、「こういうことは愛情ではなく支配ですよ」と。私たちは自分中心に常識で考え、偏見をもちがちなので、リセットしながら社会を見ておかしいと思うことはおかしいと言える。おかしいとき、どこに連絡したらいいか、どんな人に相談したらいいか、相談場所くらいは知っておくこと。「ただで相談に乗ってくれるよ」「こういう本が役に立つよ」という緩やかな支援があると思うのです。そういうことを共有し、またどうすると情報がその人の手に渡るかということがいろんなレベルにあるといいと思います。 一言ずつ、これは言っておきたい、共感した人は私にアクセスくださいというメッセージをどうぞ。
急ピッチで進む法案の危険性 千田 今日はいろいろなお話を聞けて、私自身もインスパイアされました。これからこの法案がどういう方向に行くのかという懸念があります。私自身、支援している方から「加害者と被害者に別れたのだけれど面会交流をさせなければいけなくなってしまって、どうすればいいのか」と聞かれます。共同親権ができた後に、また暴力の問題が出てきて法改正が何度も繰り返されている、海外でもまだ答えが出ていない問題です。日本では何もされていなかったところに、急ピッチでいろいろな問題が進んでいるので、ぜひ皆さんも考えていただきたいと思いますし、今後も関心をもって法案の行方を含めて見守っていただければと思います。
キーワードは支援体制と連携 山岸 今日は参加者の方がシェルターネットの関係で実際に支援に関わっている方が多いと聞いていますので、その方々へのメッセージになるかと思います。年間100組くらいの母子を支援していると、ものすごくしんどいケースがとても多く、辛くなっているものが多いです。特に子どもが社会からドロップアウトしてどうなっていくのだろうと、児童相談所と一緒にやらざるを得ないケースが出てくるわけです。そうした時に思うのは、民間団体だけで背負っていては絶対だめです。行政機関も心ある女性相談員や児童相談所の担当者、生活保護のケースワーカーが一生懸命やっているのですが、一人で背負ったら、その人もできなくなってしまうのです。本当に大変な支援です。 そこで、いろんな人を巻き込んで、民間、公的、いろんなところを含めて。公的機関も縦割りになっているところを乗り越えて横に連携していく。私たちは、本来は多文化ソーシャルワーカーを公的機関に入れるべきだと言っています。そうしたことはまだまだ無いかもしれないですが、そうした支援体制、連携がキーワードだと思っています。
課題を抱える子どもたちを自分の子どもとして支援体制を 方 今日は私自身も日本の現状についていろいろ伺うことができ勉強になりました。タヌリコールセンターは全国で7センターあり、2017年度の相談件数は12万件です。1センターだけでも600件あります。これは韓国の外国人が問題をもっている、暴力が多いという訳では無く、相談の窓口があるので皆さんがカミングアウトして自分の問題を語る場を得たのだと思います。 日本にはそれ以上の外国人の方々がいますし、その方たちは少子高齢化の日本を担っていく子どもたちであり、母親たちであり、母国には戻らずに日本で生きていくことを決断した女性たちです。私たちがこういう女性たちをエンパワメントしていく必要があります。外国人であり貧困であり障害でありと、3つくらいの課題を抱えて生活している子どもたちを自分たちの子どもとして、力を合わせて支援体制を整えていけたらと思います。
認知度を上げる企画をやることで社会的認識も広がる 佐々木 山岸さんのお話につながるかもしれませんが、私たちは地域の社会的課題を解決するためにいろんなプレイヤーと連携しています。今回のテーマにしても、違う分野の現場の支援者の方々と連携していけるといいのかなと。地域で教育の支援、子育て支援、外国人支援というそれぞれ違うテーマではありますが、その先にいる方々のなかにはそういった問題が出てくる可能性があったり、実際に起きていたりすると思います。 教育や子育てのプレイヤーからは、そこまで手を差し伸べきれないところがあります。こういう問題があると、一般の人たちの認知を高めるとともに、現場で活動しているNPOなどに認知を広げていくことができたらパスさせていただく、共同で認知度を上げるための企画をやっていくと、予防的にも広がっていく。そんなことができると社会的認識も広がっていくのではないかと感じました。いろいろつなげていくことで、私たちも貢献できることばあるのではないかと思います。
西田 次世代に、幅広い分野にこの問題を一緒に考えていく社会を目指して、キックオフの会としては素敵なコメントをいただいたと思います。今日はありがとうございました。
司会 今日はキックオフの会で、11月、12月、1月と、このテーマを深く掘り下げて、なおかつ広げていく交流学習会を企画しています。ウェルクでは『在留資格に翻弄されないために』というガイドブックもつくりました。これは在留している外国人の支援のためには在留資格の問題が非常にわかりにくいのですが、そこを丁寧にかみくだいて説明し、それぞれの文化的背景に配慮しないと行き届いた支援ができないので、現場でやっている方たちの意見を取り入れながら作っています。 今回の内容については、ホームページやガイドブックにして広げていきたいと思っています。皆様からのアイデアも取り入れながら交流学習会やホームページで発信していきたいと思っています。本日はどうもありがとうございました。
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いかにバイスタンダー(傍観者)にしないか
千田
さきほど西田さんのお話で、スウェーデンの若者が「暴力はださい」と言った。その感覚は大事だと思うのです。正しい、正しくないでは息が詰まってしまうので、「暴力はださいんだ」という感覚を若い人に持ってもらうのは重要だと思います。
私は6年くらいアメリカの暴力加害者、若い人たちをどうやって加害者にしないかという暴力のプリベンションプログラムの調査をしています。NPOに行き、大学の中でデートレイプをどう防ぐかというプログラムを見ていると、アメリカはすごくプラクティカルで、わかりやすいプログラムがたくさんあるのです。加害者でも被害者でも支援者でもない人が大部分で、そういう大部分の人をいかにバイスタンダー(傍観者)にしないか。ただ見て放っておくこと自体が暴力を支えてしまうと周知されていることに感動しました。
しかも介入すると言っても、わりとできるようなことをするのです。例えばここで性暴力が起こるかもしれないという時、介入するときに電話をかけてみる、バーテンダーに「助けて欲しい」と頼んでみるといった些細な介入によってその場の暴力の可能性に亀裂を入れることができる、そういうプログラム。
もう一つ感心したのは、プログラムが貧困の場で大きく結びついていることです。貧しいエスニックマイノリティの子たちが、自分たちの問題として考え、自分たちの暴力的な文化を変えていかなければいけないと考えることによってアイデンティティを考え直す。自分たちが加害者にならないことを考えることによってエンパワメントされていく。そういうことも、日本において重要なのではないかと思っています。
西田
正しいか正しくないか、判定を下す以前にどんな実態があって、どういうふうに聞くと参加できるか。もう少しハードルを落とした、「暴力っていやだよね」と。学校のいじめの問題も、目を背けるのではなく、「おかしいと思う、皆で話し合おうよ」と一言挙げる。そういう気風をおこすことが学校のクラスの場を変えていくわけです。駄目だ駄目だというと、隠れた、ネットのいじめが起きていますが、陰湿な問題こそ、いろんな人が少しだけ声を上げることで、「そんなださいこと嫌だよね」「かっこう悪いよね」「僕はもっとさらさらと生きたいからこうしたいね」という前向きな意見を引き出す。
一生懸命勉強されてきた皆さんから見ると、はがゆいかもしれないですが、少しずつ育てていくという気風が、これから外に向かってできるといいと思います。そういうささやかな非暴力の勉強会や若い人たちから聞く場をつくって専門の方を交えて議論していく。
今日は第一弾、キックオフです。後3回ほど続けながら広げるためのアイデア出しをしていきたいと思っているのです。山岸さんのところではどんなアイデアだったら一緒にやっていけるでしょうか。
世論形成が必要
山岸
いくつかのレベルでお話します。さきほど少し紹介した「ここにいるキャンペーン」は、外国人支援団体に広めて行こうと思っています。今日は外国人女性と子どもへのDVというお話をしましたが、日本においてマイノリティである外国籍者があまりにも日本人と対等な権利を保証されていないのです。韓国は多文化家族支援法の前に外国人権法がつくられているのです。日本は人権基本法もないし、ひどいヘイトスピーチに対して、ようやくヘイトスピーチ解消法ができましたが、人種差別撤廃法もないのです。そうした基本政策がなく、外国人の管理の政策だけはあるのです。こういう中で移住者の支援団体をずっといろいろなロビー活動、提言活動をしているのですが、本当に困難を感じています。
やはり世論形成が必要です。230万人の外国籍者が暮らしていて、皆日常生活をし、働き、国際結婚などいろいろな生活があって、ボイスアウトすることがすごく必要だということで、「ここにいるキャンペーン」があります。各地でタウンミーティングや集会を開き、そのなかで移住者外国人の当事者が発言するようなものをつくっていくのです。今も1ヶ月に1回くらい、いろんなスケジュールが入っています。こうしたものはいろんな人に参加してもらえます。カラカサンもシェルターネットの一つとして協賛企画をしますが、外の企画もキャンペーンの協賛企画、賛同企画としてやってもらうことができます。これは民間レベルでやっていくアクションの呼びかけです。
外国人女性が育てている子どもたちは日本の将来を担う人材
アドボカシーは国レベルと自治体レベルの提言がありますが、移住連やシェルターネットと一緒に外国人のDVに対する施策では、ある程度の成果を生み出しました。外国人女性が育てている子どもたちは日本国籍者であり、外国ルーツの子どもたちは日本の将来を担う人材です。その人たちが暴力の被害によって圧倒的に大変な状況になって、社会から阻害されてドロップアウトしていくという危機感に対して、国として絶対取り組むべきだというアピールをしていく戦略をとりました。
そして法律で外国籍者も明記された後、地方自治体に関しては民間で調査すると、神奈川県は先駆的に民間に委託して共同事業で7カ国語、はじめの頃からコールラインを始め、多言語支援、多文化支援をやっているのです。ところが全く何もやっていないところもある。この格差を縮めるために私もいろいろな地方に呼ばれ、被害者支援をする時に行政が受け入れてくれないから駄目だとあきらめるのでなく、法律もあるし自治体によってはこれだけのことをやっていることを知って、行政との連携を強く求めることをやっていくと、行政は考えるのです。通訳者との連携が必要、予算措置が必要だと考えていって、関わったことから施策が変わっていきます。各地で支援に携わる方は、外国籍の方が面会に来た時にも必ず公的支援に一緒にやって、そこから広がっていくと思っています。
暴力被害の支援に不可欠な専門の機関
方
今年のゴールデンウィークに実際にあったことですが、ある方から韓国人のDV被害者をかくまっているけれどもどうしたらよいかとの相談がありました。その方にいくつかの相談機関を教えて差し上げたのですが、どこも祝日でお休みだったのです。ゴールデンウィークの頭なので、3日、4日待たなければいけないと。彼女は経済的余裕があったので、危険をおかして自宅に戻って、パスポートとお金を持って急遽帰国し韓国の相談機関に行きました。帰国されて韓国から日本の弁護士とやりとりをしながら、離婚手続きを進めています。かくまった方は東京の警察に報告したのですが、警察から「自分たちの身も危険にさらすわけだから気をつけなさい」という警告があったそうです。
暴力被害の支援、特に外国人となると専門的な知識やスキル、言語的なスキルが必要です。日本では一般の方がもう一歩踏み込んでエンパワメントに携わり、支援することが必要だと思うのですが、この一件から安易な外国人暴力支援は一般市民を危険にさらすこともあると実感しました。韓国のように専門の機関が不可欠ではないかとしみじみ思った事例です。
韓国では1980年代から女性のホットラインや女性団体が一致団結して、まずは政府から助成金を受け取ってそこから大綱整備、システムの体系化へという流れがありました。日本の現実のなかでどのような支援が必要なのか情報共有し、アピールしていく必要があると思います。
一般の人にどうアピールするか
西田
エティックの方々は、NPOや社会起業家として地域のために貢献したい、ビジネスマンとして成長したいという若者たちの人材育成をパワフルに20年間頑張ってこられました。私も彼らの学生時代から存じ上げていて、特別養子縁組の支援活動に協力いただき、一緒に勉強会や意見交換をしました。
若い方や不妊治療しているママさんたちは、そういう状況を知ることによって少しずつ動き出すのです。産婦人科に特別養子縁組みの資料がまったく無かったけれど、不妊団体も取り入れるようになっていきました。全く異なるところでこういう問題がどう関連していくか、知っていただくことが大事だと思います。
エテックの佐々木さんは今、子育てパパでとして頑張っていらして、40歳を過ぎて社会全体の中核を担う、次の時代を動かしていく年頃です。次世代に、社会につないでいく若者たちにもこういう問題を一緒に考える仲間になっていただきたいと思い、今日は佐々木さんに来ていただきました。DVの分野ではないですが、児童福祉法を含めた形で、こういう課題をどのように広げていったらいいか、どういうことなら若い人たちと一緒にできるかということをお話しくださいますか。一般の人が重いテーマでよくわからないと思っている時に、どういうアプローチでアピールしていくと、受け止めやすくなるでしょうか。
周りによくあること、深刻にならずに伝えていく
佐々木
社会的な認知を広げていく、ポジティブに広げていく時に参考になる話があったらと思いました。性的少数者、LGBTの支援をしている人たちが周りにいて、子どもたちの現場ではいじめられ、自殺率が相当高い現状があるそうです。そういう人たちの支援をしているところを後ろから支援することを我々はやっています。
現場で起きていることは非常に深刻で、重いテーマです。社会的には、その重い事柄をそのまま言っても、わかるけれど重すぎてどう受け止めればいいのだろうということになりがちです。そういう時にLGBTの領域では比較的ポジティブに、「周りにそういう人がいっぱいいるから、そういう人たちと仲良くなっていこうよ」とやっている人たちもいます。そういう人たちと連携していくと、一般の人たちにとって特別なことというよりは、「周りによくあることだし、自分の友達にも性的少数者の人がいるのではないか」という感覚になるという動きが、ここ3、4年くらい一気に起きています。
先ほどアメリカの予防的プログラムのお話を聞かせていただいて、「こういうことってあるよね」と、深刻にならずに伝えることと、もっと手前の段階で、「こういうふうにあれたら皆ハッピーだよね」ということを同時に伝えていくことができると、全体として変わっていくのかなと思いました。
西田
当事者が強い衝撃を受けている時、ぼおっとしていて自覚していない時、周りの人がいくつかのチェックを覚えていて、「大丈夫かな」と思ってあげる、様子が変だと気づくだけでも大きな支えになると思います。DV加害者は外にわからないような、なかなかの知恵者が多いから、社会全体としてチェック要項を共有するだけでもだいぶ違うような気がします。
一人一人の人権を尊重する社会にするためにも、チェックができる社会でありたいし、「こういうことは愛情ではなく支配ですよ」と。私たちは自分中心に常識で考え、偏見をもちがちなので、リセットしながら社会を見ておかしいと思うことはおかしいと言える。おかしいとき、どこに連絡したらいいか、どんな人に相談したらいいか、相談場所くらいは知っておくこと。「ただで相談に乗ってくれるよ」「こういう本が役に立つよ」という緩やかな支援があると思うのです。そういうことを共有し、またどうすると情報がその人の手に渡るかということがいろんなレベルにあるといいと思います。 一言ずつ、これは言っておきたい、共感した人は私にアクセスくださいというメッセージをどうぞ。
急ピッチで進む法案の危険性
千田
今日はいろいろなお話を聞けて、私自身もインスパイアされました。これからこの法案がどういう方向に行くのかという懸念があります。私自身、支援している方から「加害者と被害者に別れたのだけれど面会交流をさせなければいけなくなってしまって、どうすればいいのか」と聞かれます。共同親権ができた後に、また暴力の問題が出てきて法改正が何度も繰り返されている、海外でもまだ答えが出ていない問題です。日本では何もされていなかったところに、急ピッチでいろいろな問題が進んでいるので、ぜひ皆さんも考えていただきたいと思いますし、今後も関心をもって法案の行方を含めて見守っていただければと思います。
キーワードは支援体制と連携
山岸
今日は参加者の方がシェルターネットの関係で実際に支援に関わっている方が多いと聞いていますので、その方々へのメッセージになるかと思います。年間100組くらいの母子を支援していると、ものすごくしんどいケースがとても多く、辛くなっているものが多いです。特に子どもが社会からドロップアウトしてどうなっていくのだろうと、児童相談所と一緒にやらざるを得ないケースが出てくるわけです。そうした時に思うのは、民間団体だけで背負っていては絶対だめです。行政機関も心ある女性相談員や児童相談所の担当者、生活保護のケースワーカーが一生懸命やっているのですが、一人で背負ったら、その人もできなくなってしまうのです。本当に大変な支援です。
そこで、いろんな人を巻き込んで、民間、公的、いろんなところを含めて。公的機関も縦割りになっているところを乗り越えて横に連携していく。私たちは、本来は多文化ソーシャルワーカーを公的機関に入れるべきだと言っています。そうしたことはまだまだ無いかもしれないですが、そうした支援体制、連携がキーワードだと思っています。
課題を抱える子どもたちを自分の子どもとして支援体制を
方
今日は私自身も日本の現状についていろいろ伺うことができ勉強になりました。タヌリコールセンターは全国で7センターあり、2017年度の相談件数は12万件です。1センターだけでも600件あります。これは韓国の外国人が問題をもっている、暴力が多いという訳では無く、相談の窓口があるので皆さんがカミングアウトして自分の問題を語る場を得たのだと思います。
日本にはそれ以上の外国人の方々がいますし、その方たちは少子高齢化の日本を担っていく子どもたちであり、母親たちであり、母国には戻らずに日本で生きていくことを決断した女性たちです。私たちがこういう女性たちをエンパワメントしていく必要があります。外国人であり貧困であり障害でありと、3つくらいの課題を抱えて生活している子どもたちを自分たちの子どもとして、力を合わせて支援体制を整えていけたらと思います。
認知度を上げる企画をやることで社会的認識も広がる
佐々木
山岸さんのお話につながるかもしれませんが、私たちは地域の社会的課題を解決するためにいろんなプレイヤーと連携しています。今回のテーマにしても、違う分野の現場の支援者の方々と連携していけるといいのかなと。地域で教育の支援、子育て支援、外国人支援というそれぞれ違うテーマではありますが、その先にいる方々のなかにはそういった問題が出てくる可能性があったり、実際に起きていたりすると思います。
教育や子育てのプレイヤーからは、そこまで手を差し伸べきれないところがあります。こういう問題があると、一般の人たちの認知を高めるとともに、現場で活動しているNPOなどに認知を広げていくことができたらパスさせていただく、共同で認知度を上げるための企画をやっていくと、予防的にも広がっていく。そんなことができると社会的認識も広がっていくのではないかと感じました。いろいろつなげていくことで、私たちも貢献できることばあるのではないかと思います。
西田
次世代に、幅広い分野にこの問題を一緒に考えていく社会を目指して、キックオフの会としては素敵なコメントをいただいたと思います。今日はありがとうございました。
司会
今日はキックオフの会で、11月、12月、1月と、このテーマを深く掘り下げて、なおかつ広げていく交流学習会を企画しています。ウェルクでは『在留資格に翻弄されないために』というガイドブックもつくりました。これは在留している外国人の支援のためには在留資格の問題が非常にわかりにくいのですが、そこを丁寧にかみくだいて説明し、それぞれの文化的背景に配慮しないと行き届いた支援ができないので、現場でやっている方たちの意見を取り入れながら作っています。
今回の内容については、ホームページやガイドブックにして広げていきたいと思っています。皆様からのアイデアも取り入れながら交流学習会やホームページで発信していきたいと思っています。本日はどうもありがとうございました。