シンポジウム
あなたにもできる暴力防止のためのグローバルな社会貢献(1)
はじめに
一般社団法人ウェルク 代表理事 大津恵子
私は30年近く前から外国籍の方のシェルターに関わってきました。一番古い団体で、外国籍の方を支援しシェルターに入れることをずっとやってきたのです。シェルターのディレクターを辞めてからも、外国籍の問題に関心を持ち、ウェルクに関わってきました。
ウェルクは東京都内で活動するDV支援の団体が集まって一緒に学習支援をし、勉強してきました。DVの問題は、なかなか外に広がっていかない。私自身が広げようとしない。どうしても被害者を保護するためにかくまってしいます。ウェルクは暴力防止のためのグローバルな社会貢献、広がることをしていかなければならないのです。
昨日講演されたオルガさんは、DID(乖離性同一障害)という病気を抱えながら彼女自身の問題を広げて、伝えていらっしゃる。彼女が隣人に支援してもらうなかで、乗り越えていってこられた。私たちも、これから次の世代を育てることを考えていかなければなりません。オープンにしていこうとウェルクは考えています。これから皆さんのご協力が必要です。よろしくお願いします。
次世代社会研究機構 代表理事 西田陽光さん
今日は、お4人のゲストから御活動とDV支援団体以外の方々にご理解頂くためのポイントをお話しいただきます。その後、活動をどのように共有していくかという大変重要なテーマです。これまでこの会では、個人のプライバシー、人権を守り生命の危機を守るために、閉じた会合が行われてきました。しかし、私が取り組んできた社会課題の世論形成で法案改正へのアプローチは、社会課題の現状を一般の社会の方々や霞が関、永田町、研究会、メディアの方々へ、どういう状況に置かれている人が苦しんでいるか、助けなければいけないかということを伝える場を構築してきました。今回も中央の方々はもとより、地域に暮らす人々の理解を得て、サポートに役立つような状況になりますように、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
ゲストの方に簡単に自己紹介いただき、これまで取り組んでいらっしゃるなかで、一番お伝えしたいことをまずは、お聞きしていきたいと思います。
離婚後の家族のあり方と暴力
武蔵大学教授 千田有紀さん
「親子断絶防止法案」の問題
日頃は家族社会学とジェンダーの社会学等を教えています。今回は離婚後の家族のあり方と暴力ということで、「親子断絶防止法案」についてお話させていただきます。
近年、家庭の中に虐待も含めて暴力があることが周知されつつあると思います。認知される件数が増えてきて、実態が増えていることと認知されることは密接に結びついていると思うのですが、社会学では、介入と保護は微妙な関係を切り結んでいます。
親子断絶防止法案は、介入ばかりして保護を軽視しているような、困ったバランスの法案だと思っています。先ほどの国会に提出される見込みが濃厚だったのですが、いくつかの事件があって頓挫しています。ただ、選挙の行方を見ていると、この法案がまずい方向に成立する可能性がゼロではないという危機感を強めています。
親子断絶防止法は、離婚後の親子を断絶させないという名前からもおどろおどろしい雰囲気を感じます。法案を通したい人たちは、最近は「共同養育支援法案」という名前にして、もう少し人々にアピールできるのではないかと考えているようです。
離婚しても両親との関係をもつ方が良いという考え方
この法案の1条には「父母の離婚等後における子と父母の継続的な関係の維持等の促進を図り、もって子の利益に資することを目的とする」とあります。離婚後に父母の両方と接触することが子どもの利益なのだと、明確に規定されている法案なのです。日本社会では、結婚している時に両親がそろっていた方が良いという考え方がありますが、離婚しても両親と関係をもつ方が良いと法案に書いてあることが問題です。もちろんいろいろな家族の形があって、離婚後に円満な関係を持てる人は良いのですが、そうでない場合にこういう規定を持った法案をつくると、善意であったとしても、どういう結果がもたらされるのか、考える必要があると思います。
特に問題とされている8条では、別居する前に子どもの監護についてどういう取り決めをするべきか、「啓発活動を行うとともに、その相談に応じ、必要な情報の提供その他の援助を行う」と国にと地方公共団体に定めています。一見、離婚後の面会交流に関しての法律に見えますが、むしろ、どういう場合も子どもを連れて逃げてはいけないということに重点の置かれている法律のように読め、それが皆、心配しているところではないかと思います。民法766条が改正されてから5年ほど経ち、一部改正されて面会交流を決めなさいと入れられただけで、家庭裁判所の方針が一変し、今、多くの苦しんでいる方たちが出て来ているのです。
夫婦の暴力と子どもへの暴力が切り離されている
3番に書いてあるのは、面会交流をさせるような原則、家庭裁判所の方針を切り替えた有名な論文です。DVがあるのだけれどDVの存在自体が争われる場合も多いであろうし、監護親からの報告だけでは足りず、「診断書や保護命令の決定書などの提出を求めて、DVの有無、様態、PTSDの症状等を確認する必要があり、その内容によっては、面会交流を禁止・制限するべき事由の有無を判断する場ありもある」という書き方なのです。
DVがあるだけではDV加害者(多くの場合は父親)との面会交流を今は拒否できません。子どもに対しての虐待があった場合だけ、かなりの診断書、物質的な証拠、写真などがあるときだけ斟酌されます。家庭裁判所に行った人は、「DVはあなたたち夫婦の問題であって子どもの問題ではないので、もっと大人になって子どもの利益のために面会交流させましょう」と説得され、実際そういう判決が出ることが繰り返されています。
家族社会学をやっていると、家族の中の暴力のダイナミクスはいろいろなものがあります。児童虐待防止法では、面前DVといって夫婦間の暴力は子どもに対する心的虐待にもなると考えられているにも関わらず、夫婦の暴力と子どもの暴力が切り離されてしまっているのです。今年、立て続けに2件の殺人事件が起こりましたが、それも民法改正と無縁ではないのです。
離婚後の家族の問題を考え直す必要性
フランスでは全てが協議離婚で、裁判所が必ず関与します。「3年別居しなさい」と、裁判所と精神科医、児童教育学者、ソーシャルワーカー、カウンセラー等が強力に監視し、徹底的に介入していきます。「家族のあり方はこうあるべきである」と決める時に、制度がきちんと出来ているわけです。それが無いままに、面会交流だけしなさいということは、とても危険なことではないかと思っています。
最近、日本でも「フレンドリーペアレント」ルール(より多く面会交流をさせるといったほうに親権を出す)による判決が出て話題になりました。アメリカでは、よりフレンドリーでたくさん面会交流をさせると主張した方に親権を渡すということを長い間やってきました。そうすると、子どもを虐待している事実があったとしても、父や母が「虐待している」と言うことによって自分が親権を失い、虐待する親の方が親権を得て虐待を問題にすることができなくなってしまい、多くの悲劇を生んできました。そういうことを含めて、離婚後の家族の問題を考え直す必要があると思っています。
外国人女性のDV被害者支援から暴力のない社会に向けて
移住者と連帯する全国ネットワーク事務局長
カラカサン――移住女性のためのエンパワメントセンター共同代表
山岸素子さん
私はカラカサンで神奈川県を中心とした外国人女性の直接支援を、移住者と連帯する全国ネットワークでは外国人をめぐるいろいろな政策提言、アドボカシーの活動に関わっています。今日は外国人女性へのDVがどういうものなのか、実態や支援から提案できることをお話します。
外国人女性のDVが増えてきている背景
カラカサンの活動を始めた2002年には、毎年100組くらいの母子を支援しましたが、そのうち7割くらいがDV関係で来ている人たちでした。外国人女性のDVが増えてきている背景には、日本で国際結婚による女性が増加していることがあります。1985年から増えていき、90年代から2010年くらいまで、ピークは2006年ですが年間2万から3万件の数で推移しています。
その一方で国際離婚が2分の1くらいの数で急増して、ピーク時の2009年には1万9000件くらいの離婚数がありました。外国人の方が女性で日本人が男性という組み合わせが8割で、国籍は中国、フィリピン、韓国と続きます。国際結婚がそもそも対等な関係の上に成り立っていない故に暴力、DVのハイリスク要因をもっています。もう一つ日本の特徴として、国際結婚で定住する女性のための国による支援の施策がないことが原因となっています。
こうした外国人女性のDV被害者の状況の正確なデータは存在しませんが、厚生労働省などの統計から推測すると、日本人のDVで保護される人の5倍という高い比率で保護されていると言えます。外国人であるが故にDVのハイリスクを抱えているのです。
外国人女性特有の暴力――文化社会的偏見にもとづく暴力
外国人女性特有の暴力として、日本人女性にプラスする暴力があります。例えば「日本語をしゃべれないのか」「日本語がへた」「この料理はまずい」、あるいはフィリピン人女性に対して「フィリピンは汚い、貧乏」という言葉を投げかけるなどの文化社会的偏見にもとづく暴力が一つです。それから在留資格の関係で、「言うことを聞かないとビザに協力しないぞ、国に帰れ」「離婚したら子どもは絶対にやらないぞ」という脅しがすごくあります。
外国人DV被害者がどういう状況にあるか。日本人と結婚していても本人が日本語や日本の法制度に精通していないので、圧倒的に生活を夫に依存せざるを得ません。法的地位、在留資格も夫の協力によって成り立っていています。母国のいろいろな事情を背負って来ているので、従わないと日本にいられないということが圧倒的に強い脅迫となり、暴力を堪え忍ばざるを得ないという状況があります。そうすると、暴力がエスカレートしていき頭から血が流れるほどのひどい身体的暴力を受けてようやく、助けを求めるということも多いです。DVが深刻化、長期化し、その中で女性と子どもの心身に与える影響がとても重くなっています。支援情報が届きにくいのも大きな特徴です。
外国人DV被害者が直面している困難
このような状況の中で外国人DV被害女性は、どのような困難に直面しているか。長期的な暴力にさらされるので自尊心が低下してしまっています。日本人の母子家庭に比べても職業選択肢が少ないので、経済的貧困に陥りやすく、また、お母さんが日本の学校制度がわからないことが多く、子どもの不登校や非行という問題につながることも多いです。お母さんにあまりにも大きなストレスがかかると、子どもの虐待に陥ってしまうこともあります。圧倒的に阻害され、大変な状況に置かれているのです。母国の家族に送金するという問題を抱えていることが多いです。
日本における外国人DV被害母子への公的支援はどうなっているでしょうか。2001年にDV防止法が施行され、国籍による排除は無いのですが、実態は、私たち民間団体が公的支援につなげようとしても「外国人は対象としていません」と平然と言われる時代でした。2004年のDV防止法第一次改正のときに、シェルターネットや移住連が協力して、外国人被害当事者も声をあげて、国会議員やいろいろな省庁とも話をした結果、マイノリティ被害者に対する配慮規定が条文に盛り込まれたのです。条文に盛り込まれたことによって、基本方針や通達がずいぶん出て、外国人被害者に対する支援がかなり認知されるようになりました。
自治体格差が大きいという課題
現在の課題は自治体格差がすごく大きいことです。DVの施策は各県の配偶者暴力相談支援センターにかなり裁量が任されているので、非常に地方格差が大きいことが特徴です。
そういう現状の中で民間の支援団体のカラカサンがやってきたことで、今日のヒントになることは何か。カラカサンの活動には、移住女性と子どもの本来の力を取り戻すための相談やカウンセリングだけでなく、女性のいろいろな自助グループ的な活動、訪問活動、様々な集会といった包括的なプログラム、子ども支援のプログラムもあります。もう一つの特徴は、個別のエンパワメントだけでなく、女性と子どもが差別や暴力や貧困のない社会に暮らせること、そういう社会づくりを目ざした提言活動としてアドボカシー活動もしています。
女性たちが実際にアクションを起こし、当事者としての発言で暴力の撤廃を求めたパレードに参加する、移住女性の権利や貧困の集会に参加するといた活動もしています。DV防止法改正にあたって国会議員にロビー活動をすることをしてきています。
当事者を守ることは大切なので、支援者中心の運動になりがちですが、当事者を中心に支援者が寄り添う形で声を届ける活動をしていかない限り、法制度や社会を変えることは難しいと実感しています。移住者と連帯する全国ネットワークでは「ここにいる 移住者の権利キャンペーン2020」があります。当事者が言いにくい状況のなかで、今、移住者当事者が発言して施策を変えていくことが必要だと、キャンペーンをやっています。こうしたことが今後のヒントになるのではと思い、お話させていただきました。
日時:2017年10月1日(日)15:00~16:30
会場:文京区シビックセンター スカイホール
主催:一般社団法人ウェルク
共催:一般社団法人次世代社会研究機構
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ドメスティック・バイオレンス(DV)や虐待、人身取引などの暴力は、グローバルな社会問題です。支援者の高齢化や日本社会全体でこれらの問題や現状を共有できていないことで、課題解決を困難にしているケースも多くなっています。ウェルクでは、非暴力な次世代社会を目指し、日本人はもとより在住外国人も含めたDV被害者支援の輪を幅広い世代へ伝え、理解と協力を得られるよう取り組みたいと考えます。
「第20回全国シェルターシンポジウム2017in東京(2017年9月30日(土) 〜10月1日(日) )」の分科会でウェルクは、若い世代のオピニオンリーダーの方々と現状を共有し、暴力防止・抑止への理解と支援の輪を広げるための具体的な取り組みに繋がる意見交換を行いました。
<内容>
■ 暴力被害者支援現場で活動している人たち、ジャーナリストや研究者、点としての市民の活動をつなぎ面に して広げていく人たちから、お話し頂き、その後、ディスカッションを展開します。
■ 暴力、虐待の存在を知ってもらい、多くの方々の関心と認知度をたかめ、暴力の抑止のためにできることに ついて意見交換、具体的な展開へ向けて考えていきたいと思います。
■ この分科会をきっかけに、今秋 11 月から交流学習会を 3 回開き、ワークショップを通して新たな共感者や次世代育成について具体的な提案やプランを考えていきます。
<ファシリテーター>
西田陽光氏
一般社団法人次世代社会研究機構 代表理事
1997 〜 2013 年政策シンクタンク運営委員、医療提言・教育提言等数々の政策提言と世論形成。
日本初の「男性の WLB」提唱によりイクメ > ンブーム牽引。 1998 〜 2017 年、大学生の政策研究による人材育成。2014〜現在、「女性のリベラルアーツ講座」「子育て知事同盟企画」等多数の子育女性支援企画、さいたま市中小企業支援 CSR 委員、児童福祉法改正世論形成により法改正により「子どもの権利」を法律化。
<パネリスト>
千田有紀さん
武蔵大学教授
専門は、家族社会学、ジェンダー論、現代社会論など。ヤフーニュースなどで、CM の炎上などジェンダーにかんして、また離婚後の親子の関係のありかたと暴力についてなどの家族について、発信 している。
著書に『日本型近代家族―どこから来て、どこへ行くのか』(勁草書房)、『女性学/男性学』(岩波書店)、共著に『ジェンダー論をつかむ』(有斐閣)など。
方こすもさん
社会福祉法人 礼拝会 母子生活支援施設カサ・デ・サンタマリアアフターケア担当職員
社会福祉士。滞日外国人支援、医療通訳、心理相談等。障がい者複合施設アガぺセンター生活支援員を経て、韓国女性家族部管轄「移住女性緊急支援センター」(現タヌリコールセンター)にて日本語・英語相談員として移住女性の DV 被害、生活支援等に関わる。現在、横浜市で母子世帯の自立支援コーディネートや外国籍母子世帯の支援。共著「移住女性と相談ー韓国移住女性緊急支援センター相談員の経験」『相談の力−男女参画社会と相談員の仕事』(明石書店)」
佐々木健介さん
NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部マネージャー
エティック(ETIC.:Entrepreneurial Training for Innovative Communities)は、社会的課題を解決しイノベーションを起し ていく「社会起業家」のスタートアップを支援するNPO。仕事に幸せを感じ毎日感謝できる、そんな人たちが増えていったら、複雑で深刻な世界のいろんな問題が解決されていくんだろうと思っています。まずは、自分から。慶應義塾大学総合政策学部卒業。AIESEC in JAPAN MCP2000/01。
山岸素子さん
移住者と連帯する全国ネットワーク事務局長、カラカサン〜移住女性のためのエンパワメントセンター共同代表
1990 年代始めより、移住者(外国人)支援運動にかかわる。 よりそいホットライン外国語ライン専門コーディネーター、日本カトリック難民移住移動者委員会委員、立教大学非常勤講師などを兼任。移住女性と子どもの直接支援、移住者の人権に関するアドボカシー活動、多文化共生に関する啓発活動に携わる。