多分野活動領域とつながるための第4回交流学習会

シングルマザー支援の現場から
空き家を活かして地域もオーナーも母子も
三方良しの支援(1)

日時:9月2日(日)14:00〜16:00
会場:和泉橋区民館 4階会議室

特定非営利活動法人リトルワンズ代表理事 小山訓久さん

 私は、もともとアメリカの教会系NPOでDV被害者支援のボランティアとして調理、掃除、学習支援、武道を教えていました。日本に帰ってからは、テレビ局のニュースや情報番組のセクションで構成作家をしていました。当時はシングルマザーの貧困、子どもの貧困というテーマでは「視聴率がとれない」「日本では貧困は無い」という理由で、映像化するにはハードルが高い状況でした。

 テレビ局を辞めてNPOを立ち上げたのが10年前です。最初は1人で始め、次第に仲間も増え、今では事務所を持てる規模に団体は成長しました。お母さんにフィットした事業を、行政と企業と連携しながら行っています。杉並区に、お母さんが集える親子カフェをつくりました。ランチや講座を受けられるだけではなく、シングルマザーにとっての相談、緊急就労、食品や服の受け取り場所として機能するものです。

 家の支援は6年目になります。豊島区で始め、今は関東全域で行っています。空き家をリノベーションしてお母さんに貸すという事業は、日本では例がないため、新聞、テレビで取り上げられることも多いです。シングルマザー向けの居住支援ということで、国土交通省のモデル事業になっています。

六方良しの支援
 事業としては、空き家を見つけてお母さんに貸すというシンプルなものですが、空き家を見つけるのは難しく、オーナーを説得するのも大変です。オーナーが許可を出しても、相続をするお子さんが許さない時もあります。しかし、貸してくださっているオーナーには喜んで頂いていて、その気持ちを新聞の投書欄に載せていただいたこともあります。

 オーナーと不動産屋、地域、行政、お母さん、NPOの全員がプラスになる仕組みです。 国の定義では、1年以上空いている物件が「空き家」です。都会では空き室、マンションが多く、一昨年に82家族、昨年は68家族、今年は30家族にお部屋をご提供しています。空き家はリノベーションの必要がありますが、空き室は掃除済みが多いです。また、23区では圧倒的に空き室が多いです。ですから、割合でいうと、空き室の提供が多く、提供までのスピードも早いです。

家賃の設定について
 家賃は相場より1割から2割低くしています。7万円のところを6万5千円か6万円くらいで相談します。これまで提供したのは3万円から7万円くらいです。また、リトルワンズから引っ越し代を出したり、「フリーレント(1ヶ月は無料)にしませんか」と、オーナーと相談して、すこしでもシングルマザーの負担を減らす工夫をしています。通学に必要な自転車をプレゼントすることもあります。

 国交省では、シングルマザー、ホームレスなど住宅確保要配慮者のために、家賃補助制度(1ヶ月最大4万円)を作りました。自治体から支給されるのですが、まだ実施した自治体は無いです。制度開始を待つよりも、私たちが家賃を下げてもらったり、引っ越し費用を補助して、シングルマザーの「今」に対応しています。

シングルマザーへの誤解
 シングルマザーに部屋を貸すことを不動産屋が二の足を踏むのはなぜか。「お母さんが働いている間、子どもが1人で家にいて事故があったらどうするのか」「お母さんは働いていないのではないか」「避難してくるお母さんを追いかけてくる人がいたらどうするのか」という懸念や誤解が多いです。実際は、シングルマザーのほとんどは、子どもを保育園に預けて働いています。ですから、オーナーの誤解を解くことも私たちの仕事です。私たちが「こういうお母さんで、家賃も払えますから大丈夫です」と言うと、オーナーは安心してくれます。

 最初は「入居者とは接触しない」と言っていたオーナーが、今では子どもに「じいじ、じいじ」と呼ばれて喜んでいます。赤ちゃんに接して喜び、その赤ちゃんが4歳になり、オーナーは孫ができたように嬉しい。お母さんや子どもは、おじいちゃんができて嬉しい。こうしたつながりができることを私たちもとても嬉しく思っています。人と人がふれあうことの良さ、次世代に貢献するという社会的意義、経済的にも損をしない。このように、入居者とオーナーの互いにメリットが多く、ワクワクする事業であるよう心掛けています。

行政、NPO、不動産屋の三者並立で
 行政、NPO、不動産屋が連携すると、それぞれの良さを活かし、互いに仕事をチェックできるのが利点です。不動産屋は家をマッチングするプロで、データを持っていますが、支援のプロではありません。マッチングした後は私たちNPOに任せてもらい、行政は補助金や助成金を出します。

 また、他の団体とうまく付き合うことは大事なポイントです。支援はスピードが大事で、大人の1年と子どもの1年では全く違います。既存の団体と連携した方が早いです。ただし、連携に於いては、経営の話だけではなく、支援に対するコアの部分がお互いにフィットするかどうかが大事です。

 不動産のデベロッパーやフランチャイズ企業が私たちのところに営業に来ることがありますが、コアな部分で折り合いのつかないことが多いです。お母さんたちやお子さんたちを単なる消費者と考えているのであれば、私たちは組むことはできません。今、8つの企業と組んでますが、譲れない心の部分、ポリシーを共有してもらっています。

先行事例を知り、実績ある団体と連携を
外国人、障害者、シングルマザー、DV被害者など、相手に対して、具体的な支援のやり方はそれぞれ変わってくると思います。障害者や高齢者の場合は、家を広めにするなどハード面の工夫が必要です。私たちの場合は住む方が女性なので、防犯に工夫をしています。

 家をオファーされることもありますが、使えない家も多いです。シングルマザーを支援する場合には、保育園、幼稚園、学校が近くにないと困ります。使えない家は他の団体に渡すこともできます。空き家、空き室のデータは不動産屋だけではなく、支援している団体が持っていることがあります。こうしたデータを行政ともシェアできたら非常に良いと思います。

 部屋はワンルームから3Kくらいの大きさで、形態はアパート、マンション、一軒家、シェアハウスです。杉並区に作りました住宅は、独立型シェアハウスと呼んでいます。ワンルームと同じで、シェアしているのは屋根、自転車置き場、水道管くらいです。

 3人のお子さんを持つシングルマザーが、お部屋をずっと探していました。彼女たち4人は、ワンルームに住んでいたので、勉強部屋がありません。子どもたちは玄関やキッチン、お風呂場でそれぞれ勉強していたのです。行政は公営住宅への入居を勧めますが、公募があるため、すぐには入居できません。今すぐ家を探している方、出ていかなければいけない方への支援は遅れてしまっています。シングルマザーやお子さんは精神的・肉体的なDV被害を受けていることがあるので、住宅を提供するだけではなく、心身ともにケアが必要です。

 家の支援をやりたい団体さんも多くいらっしゃいます。その前に、先行事例や先に事業を行っている団体を調べてみましょう。先行団体が持っているノウハウは深いので、組み合わせたり、連携すればうまくいくのではないでしょうか。私たちが持っているノウハウも、多くの企業、団体から学んだものが多いです。連携が重要です。

 物件はあるけれど補助金の申請の方法がわからないときには、対象者が「住宅確保要配慮者」に該当するのか、住居なのか、一時保護なのか、耐震基準に合っているかなど、考えるべき点が多いです。その際にも自分たちだけで考えるのではなく、プロの意見を聞くと早いです。

 地方などエリアが広く家賃が低いところでは、住宅を建てやすいです。一方、支援をできる団体がいなかったり、家賃相場も低いため、住宅事業がコストと見合わないこともあるでしょう。都会では家賃が高く、団体単独で運営するのは工夫が要ります。

 今後は、家賃補助が進むことを期待しています。国交省は使ってほしいのに、地方自治体が使っていないのです。もったいないですよね。自治体負担もあるので、進まないのでしょうが、住宅に困っている方はどこの自治体にもいらっしゃいます。住宅は人生の基盤ですから、これからも住宅支援が広がることを願っています。


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